ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:After

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アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:After

エピローグ

2週間ぶりに外に出た。ドアを開ける前から興奮が抑えられなかった。そして出た瞬間、ここが私のいる世界なのだと全身で感じることができた。眩しいほどの光、というのは比喩じゃあない。こんな世界に私はいたのだ。

それからしばらく育った町を歩いてみる。家の前の長い下り坂、そこから駅へと続く道のりには大きなトンネルがあり、途中には元駄菓子屋だったバーや元ラーメン屋だったコンビニ、元何だったかわからないおしゃれなビルが立ち並ぶ。“コロナ対策として従業員一同、徹底した消毒をしています”と書かれているのは美容室だ。

もし、あの時石田みくにの言葉を信じてこの駅前まで来ていたらどうなっただろうか。花田の言葉通りであれば別世界にその選択をした自分もいることになるのだろうか? よくはわからないが、こと私に関してだけ言えば何度繰り返しても同じ決断をすると思う。

その石田は当局に拘束されているらしい。御影石たちと立場を同じくしながら、彼女やその仲間たちがなぜあそこまで大統領計画に反対していたのかは私は知る由もないが

「彼女にとっては何人の人間が消えてしまおうともこの国をいい方向に変えていきたかったんでしょうね。でもそれは彼女が嫌っていた“大義のために誰かを犠牲にする”ことそのものだったんですが。」

と話していた御影石の言葉は自分のためにも覚えておこうと思う。人は何度でも間違えてしまうのだから。

間違えると言えばうちの父だ。久々にリビングでテレビを、有名俳優のインタビュー番組を見ていたのだが、母と私があーでもない、こうでもないと語りはじめたところ「お前らの話で大事なところが聞こえない!」と怒り出し、しかしその大声でほんとに一番大事な部分が聞こえなくなるというミラクルを今朝起こした。

石田みくにもかわいそうに、こんな父親に交渉を持ちかけていたらしく「おかしな保険の勧誘電話が続いて困る」と母親にこぼしていたらしい。「ただ声は可愛かった」と付け足して母親に怒られていたのはもうむしろ微笑ましい日常だ。

私は歩き続ける。住んでた時には気づかなかったような細道に入り、見たことのない景色を味わう。近くですら知らないことばかりなのだなと改めて思う。1時間ほど歩いて、家の近くまで戻ると子供のころに盆踊りをした神社の前に出た。あまり人が訪れることがないのだろう、落ち葉も多く、少し寂し気な雰囲気がする。私は階段をあがり100円を投げ入れて手を合わせた。きっと久々の参拝客で喜ばれているだろうと思い、来た道を戻ると、見知らぬ男性が階段を上ってきて普通にお参りをはじめた。世の中は知らないことばかりなのだと改めて思う。

外にでて歩いていれば色んなものが見える。窓から見える風景では狭すぎるのだ。

「しっかり立って歩けよ。」

なんとなく花田の声が聞こえた気がした。

ふと思い出してスマホを見ても御影石とのやり取りは消えていた。この2週間は本当に現実だったんだろうか?していたことと言えばただ部屋にこもってあれこれ考えていただけだ。とりあえず明日には妻と子供の待つ大阪へと向かう。

そこでも私は歩き続けるだろう。あの島と同じ、太陽の下で。

The end

イラスト:田中ノリヲ 文:田中トシ

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