ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:13

ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:13

アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:13

「さて何から話したほうがいいかな。」PCの画面に花田が映っている

「お任せしますよ。もうどんな話が出てきたって驚かないです。」大げさでもない、すでに驚くような話ばかりが続いてきているのだから。

「頼もしいな、さすがは大統領候補。元、ということになるがね。」

「大統領計画って一体なんだったんです?」

「まずはそこからだな、この国の古い決まりでな。国難に際しては新たな指導者を預言によって求める。自分の名前はもう思い出したか?」

「はい。」

「そうか、いるべき世界を選んだのだな。こちらの世界もいいものなんだぞ。少なくとも君が求めていたものはある。」

「あなたが私の立場でもきっとそうなんじゃないですか?不思議なことにそっちもこっちも、どちらも私の居場所があり家族がいたのが不思議でしたが。」

「君からすればこの世界は“こうだったかもしれない”という別の可能性なんだ。その世界にもこの世界にも君はこうして存在するし、重なり合ってもいるんだよ。」なんとも不思議な話だがそれはそのまま私が経験したことでもある。

「まあ、でもそうだな。人はあるべきところに帰る、そういうもんだ。生まれた場所や環境、君が生まれたこと、そこに連なるすべての流れもひと繋ぎのものだ。自分で決断したと思われることも、実は運命と呼べる大きな流れの中にあるものだったりね。」

「難しい話ですね。だとしたらほんとにイレギュラーな体験だったわけですね。異世界の人間同士が交わるなんて。」

「いや、こうして私と君が語り合えている、ということも含めてだよ。違う世界の人間同士が邂逅した、ということも含めて、運命のなせる所作なわけさ。」

「おっしゃることはわかりますけどね。なぜ自分がそんな不思議なことに巻き込まれたのかは理解できませんよ。」

「ふふふ、そうだろうな。まさか私も画面でしか見てこなかった君と直接こうやって、まあPC越しではあるが話すことになるとは思わなんだ。」

「いつから見てらしたんですか?」

「君の配信番組か?何年前からだろうなあ。ずっと彼を追っていたわけではないからな。たまに気になって彼の人生を覗いてたら急に面白そうなことをやり始めるじゃないか。それからはほぼ毎週覗いてしまったよ。」

「いまだに信じられません。こっちの世界のマサさんがこんなにかっちりとスーツ着てるなんて。」マサさんのいつもの姿を思い出してなんだかにやけてしまった。

「彼は若いころからヒッピーやフラワーチルドレンだと、ふっふっふ。私には羨ましい人生に見えたよ。可能性、そう。もし何かが違っていたらそうなっていたという可能性なんだ私も、君も。そしてその可能性を個人から国の単位にまで広げることこそが大統領計画の本質だ。」

異世界、ではないな。別世界と呼ぶ方がいいかなと言いながら花田は大統領計画について語りだした。

「先にこれは言っておこう。石田は君の人格は消される、と言っていたらしいがそれは違う。たしかに我々にそれができるか、といえば可能だ。そういう儀式も術式も知っている。けれど大統領計画の本質は世界の在り方の違う可能性を重ねて、より良い未来を探すことなんだ。まあその過程でイタコのようなことはされるだろうがそれでそのまま君がいなくなるわけじゃあない。ただまあ、君の人格のせいでその候補に選ばれたわけじゃない、ってのだけは本当だな。」私も花田も笑った。

「この日本はな、君のところよりも見えない世界を大切にする。君の住んでいた島とむしろ近いのだと思うよ。番組で君らが話していたことからの想像だがね。儀式も儀礼もお祈りも、この日本では当たり前の風景だ。」

「本当に見ていたんですね。別世界の人間とインターネットでつながれるなんてまだ信じられない。」

「ほんの少しだけな。別の可能性、そこに揺らぎを持っていくだけのことだがまあ神祇官の中でもできる人間は限られてる。ただそれでも実際に別世界から預言の飛行機が現れたと報告を受けた時はさすがにたまげたよ。しかもその便には君が乗っていた。配信番組をみていたから君が日本へ向かうとは聞いていたがまさかこの便だったとは。」

「危うく私の世界でも欠航になりそうでしたけどね。」ギリギリであの便に乗れたこと自体もラッキーだったはずだが、たった2週間前の出来事がもはや遠い昔だ。

「運命とは不思議なものだ。別世界の自分を追いかけていて見つけた君がこうして重要人物となって現れてくるのだから。」おそらくマサさんと同じ、レモンティーが入っているであろうグラスを傾けて一飲みする花田。私も本当に不思議に思う。

「あの便の出現は預言されていたんだよ。神祇伯長によってね。キボク、亀の卜と書くんだが亀の甲羅をな、焼いて占うんだ。それによって国難の際に違う世界から現れる新たな指導者を預言するんだ。この国の古くからの習わしだ。今回はしかし75年ぶりのことだったからな。今の神祇伯長にとってももちろん初めての事。伝統から言えば間違いのないことではあったんだが、誰しもが信じ切れずにいたのだ。別世界から飛行機丸ごとやってくるなんてね。」花田もその信じ切れない一人であったらしい。

「神隠し、君の世界にもあっただろう?一人や数人が別世界に流れていってしまうということはこの世界でも当然ある。逆に現れることもな。しかし飛行機丸ごととなると話は別だ。政府は大慌てさ。コロナの感染の危険性もあるし、事を大きくして事態を報道されるのはさらに社会を混乱に陥れることとなる。空港の全員にかん口令が敷かれ、搭乗者のすべてが極秘裏に監視されることとなった。幸い、このご時世で空港に人間が少なかったのは幸いだよ。

たださらに驚いたのはそのあとだ。搭乗者が一歩家から出ると消えてしまう事例が確認された。私は耳を疑ったよ。神祇伯長に聞いても正確な理由はわからない。果たして彼らは消えてしまったのか、それとも元の世界に戻れたのか。

それで慌てて御影石に連絡を取らせたのさ。私はね、実は君に大統領になってほしかったわけじゃない。ただ消えずにいてほしかったんだよ、じゃなきゃマサが向こうの世界で困るだろう?」

花田がそう言い終えるのとほぼタイミングを同じくしてPCの画面上に新たな参加者が表示された。

「おう、ちょうど御影石が来たか。」

そして3分割となった画面の一つに御影石が映し出される。

「こんばんは。もう残すところあと一日ですね。」御影石は語り掛ける。そう、この顔だ。私はなぜ一目見た時に彼が誰だか気づかなかったのか。

「なぜ私の方を信じてくれたんです?」

時計は深夜12時を回ったところだった。

・・・to be continued

イラスト:田中ノリヲ 文:田中トシ

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