アナザーワールドプレジデント
14日間の隔離生活
Day:12
~~昨日
「誰がかけてきたと思いました?それとも今、誰かと話してたところ?」思いがけない電話の相手に戸惑いを隠せなかった。
「いえ、そんなことよりもどういう用件なんです?」
「約束をすっぽかした相手から電話があって何の用件か、だなんてずいぶんですね。」
「行くといった覚えはないですよ。」
「知りたいことがあるんじゃないんですか?この世界のこと。元の世界のこと。」そうだ、石田みくにもまた私からすれば真実を知る人間に違いはない。
「知りたいですよ、でもなぜそのために外に出て会わなきゃいけないんです?」石田はほんとに私を消滅させようとしているのだろうか。
「この前も言ったように、この隔離生活が終わったらあなたは大統領候補として擁立されるんです。もちろんそのまますぐ、ということではなく。この国の大統領として政治、経済、そして宗教儀式について学ぶため数年間は神祇事務局預かりとなります。」その口ぶりからは嘘をついているようには思えない。
「だとしてもなぜ今あなたと私が会わなきゃいけないんですか?」
「一つにはこんなおかしな大統領候補選考を止めるため。二つ目はそれに協力して頂ければ、私はあなたをもとの世界に返すことができるからです。」
「元の世界に?帰れるんですか?」
「帰れます。今のあなたの状態は“ねじれ”なんです。裏返りつつあるという表現でもいいかもしれない。あなたを軸に二つの世界が干渉しあっている。例えばあなたのご両親や実家は元の世界とそんなに違わないんじゃないですか?」そう、私の記憶が本物であるのなら、私はここで育ってきたし、こうして海外から戻ってきたのだし、個人的な規模の話でいえば異世界といっても違いは大きくはない。
「あなたを軸に少し違う世界が二つ今重なっている。でもまだあなたはどちらにでもその足を延ばすことができるんです。不安定な存在である今ならば。」
「どうやるんですかそれは。」
「明日、直接お話しします。あなたが外に出て大統領候補から降りてくれないのであれば教えられません。」
「それをどう信じるんです?出たが最後、御影石の話によれば私は消えてしまうかもしれない。」
「やはり先ほど話していた相手は御影石、でしたか。」彼の名前を出すべきじゃなかったかもしれない。。
「彼が誰なのか検討はついています、消えるだなんて彼らの脅しですよ。あなたはこれから彼らに何をされるのか知っていますか?」
「何かされるって言うんですか?」
「大統領候補、響きはいいですよね。でもあなたのおっしゃる通り、素人がいきなりそんな大役を果たせるわけがない。大統領計画というのはあなたを器にすることなんですよ。必要なのは“ねじれ”を超えてきたあなたの存在であって、あなたという人格じゃないんです。」話についていくのが精いっぱいで理解が追い付かない。
「洗脳、もしくはそれを超えるなにか。あなたはあなたじゃなくなります。一人の人間を同意もなくそうさせる。果たしてそんな行為がこの国を幸福に導くと思いますか?」
私が私じゃなくなる?その衝撃に言葉を失ってしまった。それが大統領計画の真実なのか。
「証拠を示すことが今は難しい、けれど必ずあなたをもとの世界に戻します。大儀の犠牲になる人なんて作りたくない、わたしはあなたを助けたいんです。そしてこの国の未来を幸せな形に導きたいんです。」
「もう隔離終了までわずかです。これが最後のチャンスと思ってください。明日、夕方6時に駅前でお待ちしています。あなたの勇気と誇りを信じます。」
~~
今日は朝から天気がいい。雨は一日中降るものだ、ということを昨日まで私は忘れていた。雨はパッと降ってパッと止むもの。南の島に住んでいた私にはそれが当然だったのだ。当たり前と思っていたことなんていとも簡単に変わるものだ。
日が傾きかけオレンジ色の光が窓から差し込んでくる。かの地と違い、ここの太陽はなんだか柔らかい。妻にはメッセージを送っておいた。こっちの世界の妻、ということになるのだろうか。連絡が途切れがちな私を心配してくれている。両親はリビングでテレビをみているようだ。大きな声を出している父親は相変わらずドジでもしてるんだろう。
間もなく約束の時間になる。私はただ流れに身をゆだねようと思う。
それが名前も思い出せないかの地で私が教えられたことのように思うから。
・・・to be continued