ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:10

ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:10

アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:10

どうにも昔から苦手なことがある。強すぎるストレスを受けると現実逃避をしてしまうのだ。例えばそれは翌日に迫った苦手な試験の日であったり、翌日までに終わりそうもない仕事を徹夜している時だったり。本来なら少しでも時間を節約して課題に取り組めばいいものを、気が付けばテレビを見、漫画を読み、まるで暇つぶししているかのように時間を過ごしてしまうのだ。今がまさにそんな状態で、考えることを放棄してひたすらにまたスマホゲームに時間を放り込んでいる。歩かなければ、どうせ進みはしないのに。

隔離生活は10日目。いつの間にかそんなに経つのだ。隔離生活の終わりは見えている、わずか5日後にはいつもの生活に戻るのだ。

戻るのだろうか。

今日はやけに外が暖かく、久しぶりに半そでになって過ごしている。もう数年来Tシャツ姿で南国暮らしをしてきた自分にはやはりこの方がしっくりくる。

いつもの生活、それはなんだろうか。コロナの影響で仕事も止まり,かの地を離れた。今だどの国も社会活動が制限され、飲食店の自粛や学校の閉鎖もまだしばらくは続く様相だ。そしてそれが解かれたとて、果たして私が言ういつもの生活、に戻るのだろうか。

石田はこう言った。ここは私の知らない日本だと。

ならばこの先に待っている生活、暮らしとは一体何だろう。違う世界の人間と私は違和感なく暮らしていけるのだろうか。私がこの世界で見た景色は空港の一部と、そこからの道のりで見た車窓からの景色、後はこの部屋の窓から見えるもの、それだけだ。

何も変わったところはない。両親との対話も昔と変わらず、料理の味も昔と変わらず、聞けば大統領制だということだけが違っている様子だ。異世界といってもその程度のことであれば無理なくやれるかもしれない。自分自身が大統領になる、なんて突拍子もないことでなければ、だ。だがそれも今はどうでもいい。

石田との話し合いは遅くまで及んだ。まだ隠していることもありそうだったが、今起きていることを概ね正直に話してくれたように思う。異世界から私がやってきた、という話は普通であれば信じるどころか頭がおかしいのだと一蹴するところだろう。しかし私はそれを信じざるを得なかったのだ。

~~昨夜

「あなたはどこから飛行機に乗ったか覚えてますか?」

「そりゃあ当然です。なんでそんなことを聞くんです?」いきなりおかしなことを聞くものだ。それがこの状況と何か関係があるのだろうか。

「教えて下さいますか?」

「あー、えーと、あれ?おかしいな…。隔離生活が長いせいか少し頭が回らないんですよ。あれ?なんて言ったかな…。」おかしい、記憶を辿るけどもその名前が出てこない。

「ではあなたのお名前を教えてください。」

私の名前を?・・・と答えかけた瞬間に全身の血の気が引いた。自分の名前が出てこないのだ。

「今わたしから示せるのはここまでです。明日、実際にお会いしましょう。正午ちょうどにメールを入れます。」

~~

もう夕方になるがPCは一度も開いていない。私は一体、だれなのだろう。


・・・to be continued

イラスト:田中ノリヲ 文:田中トシ

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