ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:9

ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:9

アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:9

「日本の首相はアベさんでしょ、ほぼ毎日テレビに映ってるじゃない。大丈夫?心配になっちゃうなあ。」

「そうだよな。忘れたわけじゃないんだよ。なんか変なことが多くてさ。」

「変なこと?部屋にいるだけなのに?ちょっと!インターネット使って女の人とやり取りとかしてるんじゃないでしょうね。」浮気の心配でもしているかのように妻は言う。これは昨日女性から電話があって、なんて話はうかつにしない方がいいのかもしれない。

「そんなことは何にもしてないよ。閉じこもってるから疲れてるだけかもしれないな。でもほら、実は首相の上に大統領がいたりしないよな?」

「ちょっとほんとに大丈夫?そんな国もあるらしいけど日本にいるわけないじゃない。あ、ごめん。呼ばれたから行ってこなきゃ。また連絡するね。あと1週間もすれば家族集合できるんだからね。楽しいこと考えてなるべくストレス減らすのがいいよ。わたしも子供達も楽しみにしてるんだからね。」

そういうとLINEの通話は切れた。末娘の薬をもらうためにちょうど病院で並んでたところだったらしい。昨夜、考えた末に大阪の妻にLINEを送ったのだ。

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日本の首相って誰だっけ?大統領?

まあ意味不明であったろう。それで今朝心配してLINE通話をかけてきたというわけだ。

もはや私は自分で自分が信じられなくなりつつある。長い隔離生活の中で壊れてしまったんじゃないかとすら思う。被害妄想、誇大妄想、幻聴、あらゆる思い込みを疑ってかかる必要がある。もしかしたら日本は大統領が納めていて総理大臣は中村雅俊で参勤交代で九州からそのまんま東が上洛してくるのかもしれないのだ。けれど何度自分を疑ってもこのPCに届いているZOOMのお誘いは疑いのない事実だろう。差出人は石田、とある。昨日の女性で間違いないはずだ。私が妄想でわざわざ別アカウントを作り自分にメールを送るようなことはしてないと断言できる。それくらいには頭はクリアだ。

とにもかくにもこの石田という女性に全部聞いてみよう。それ以外にはこの混乱を鎮める方法は思いつかないのだから。

夜、指定の時間になって私はZOOMを立ち上げてPCの前で待機した。まだ向こうがONになる様子はないが、果たしてこの石田という女性はどんな人なのだろうか。ひょっとしたらすごく美人なのだろうか。いや、期待しすぎてはいけない。そもそも外見で人を判断するなんて低俗だ。あ、そういえばもう一度顔を洗った方が良いかもしれないな。ヒゲはちゃんと剃ったけど、果たして清潔感ある男にみえるだろうか、いや、そんなつもりじゃないです。私にはかわいい妻と子が・・・いけません・・!

「大丈夫ですか?」いつの間にかZOOMがONになっていたらしい。

「なんか気持ち悪かったですけど・・・。」失礼な女だ。

「いえ、すいません。思い出し笑いをしていただけです。まだつながらないと思っていたので。」油断と失態を押し流すように毅然とした顔を私は作って言った。

しかし・・・この女性が石田か。ふっくらとした唇に、くっきりとしたアーモンド形の瞳。理知的で整った顔立ちをしている。ふと誰かに似ている気もしたが、思い出せない。ここ数日の混乱ですっかり頭も老け込んでしまっている気がする。しっかりせねば。まごうことなき真実に、今こそ迫るのだ。

「それで、教えてくれるんでしたよね。大統領計画。」

「はい、でもその真相は明日、お会いした時にお話ししたいんです。今日はその前の段階、最初は今あなたが置かれている状況を確認させてください。そのあとでちゃんと私自身の話もさせてもらいます。いいですか?」私はゆっくりとうなづいた。

「あなたは4月の25日に羽田空港へ到着した、しばらくして父親が車で迎えにきてそのまま実家に戻られた。そして厚生労働省の指示にしたがい、14日間の隔離生活がはじまった、そうですよね?」

「そうです。コロナの感染を広げないためにも当然の対応だったと思います。両親には思いがけず負担になってしまいましたけどね。」

「それで、実家に戻ってから誰かから連絡は?」

「まあ、妻と数人の友達からは。」

「ほかにいませんか?」

「なんか尋問されてるみたいなんですけど。」

「ごめんなさい、でもとても大事なことなんです。連絡があったはず、ということまでは知ってるんです。ここまでお話頂ければ私の話もさせてもらいます。」

「ジャッキー御影石、と名乗る男性から連絡がありました。」

「ジャッキー??ジャッキーみかげいし?ちょっとそんな名前・・・。あっはっは!ちょっといくら何でも、おほん。失礼。そんな素っ頓狂な名前が出てくると思わなかったので。プッ。」」石田は笑いがこらえきれない様子だ。まあこんなバカげた名前もないもんな。

「それでその人とはどんな話を?」この女性を信じられるかはわからない。しかし真実への手掛かりはここしかない。私はありのままを話した。

「この14日間は隔離レースで優勝したら賞金がでる、とかいう話を。まあそんな賞金とかは別にアレですけど。」

アレなんかじゃない。真実・・・そう!あるのか…レースは…っ!賞金は……っ!!

「それだけですか?そうですか。大統領計画については全く聞いてないということなんですね。わかりました。ではここから私の話です。」石田は私の意図を鮮やかにスルーしてきた。

「ちょっと待って!レースはない、んですね?その隔離14日間レースみたいなやつ!」

「確かにある意味ではレースなんですかねこれは。でも賞金なんてありませんよ。」

「・・・そうですよね。」私は心の折れる音を聞いた。

「あなたが14日間家からでないことで、得をする人間がいるのは確かです。けど、それはあなたにとってプラスになるということではないんです。下手したらあなたを、ご家族も含めて不幸にするかもしれない。」

「ふう、一体どういうことなんです?大統領がどうのって話ですか?」

「詳細は明日、お会いした時にお伝えしますね。私の名前は石田みくに。とある団体で政治活動に関わっています。そして安易な方法で大統領候補選出を決める現行法に反対している者です。今のあなたには理解しにくいことでしょうが、この国は現在、というより75年前から大統領制です。」それから石田は息を吸い込んで、覚悟を決めたようにこう言った。

「そして、ここはあなたの知らない日本です。お帰りなさい。」


・・・to be continued

イラスト:田中ノリヲ 文:田中トシ

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