ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:8

ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:8

アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:8

今日も朝から連絡を待つが御影石からの連絡は来ていない。ならばいっその事レースだ何だと両親に全て話して事の真偽を確かめたいとも思うのだが、昨日の出来事を思い出すとその選択をするのは悪手である気もする。せめて妻には相談できるとよいのだが、あいにく昨夜から末娘がマイコプラズマにかかってしまったらしく落ち着いてやり取りすることができなかった。レースだ御影石だと不可解な内容を短時間で話したとて、所詮私の精神状態を心配されてそのまま隔離入院にでもされるのがオチであるから、しばらくは一人で抱え込むしかない。

実はあれから何度も庭に出ようと試みている。しかしそれで昏倒するようなことはその後一度もない。完全に庭に出てしまうとそのままレース(あるとすればだが)の資格を失う可能性もあるので身を乗り出す程度にしているのだが、窓を開けて身を乗り出す行為を幾度となく繰り返す奇怪な様は、ちょっとした妖怪のように見えて怖いと思うのでどうか見ないで近所の方々。

そんなわけで今日はひたすら現実逃避がしたくなり、スマホでゲームをひたすらやっていることにした。実際に歩かないと物語が進まないやつだ。楽しくなくてももういいの。ほら、時間だけは過ぎてくれるのであっという間に日が傾いてきた。

果たして隔離後に私は社会復帰できるのだろうか、と心配になっているとリビングの黒電話が鳴った。両親は出かけているので一瞬迷ったが、そういえば地区の保健担当者からフォローアップがあります、という話は聞いていたので健康状態の確認だろうと数日ぶりにリビングに出て私は受話器を持ち上げた。

「はい、もしもし?」

「どうもこんにちは。体調はどうですか?」やはり保健所からの確認のようだ。今回は女性職員らしい。

「ええ、すこぶるいいですよ。体温も平常ですし、食欲もあります。」とりあえず立ち眩みのことは黙っておいた方が良いだろう。実際コロナを疑うような症状は皆無だ。

「それはよかったです。ひょっとして混乱してふさぎ込んでるんじゃないかと心配したので。」女性は含みを持たせるようにそう言った。

「どういうことです?」

「おかしな出来事が続いてるでしょ?あなたの周りに。」

「・・・保健所の方、じゃないんですか?」

「初めまして、石田と申します。あなたのことを助けたいと思ってお電話してます。不安だったと思うんですが状況はこちらでほぼ把握していると思ってくれて大丈夫です。」

保健所の人間ではなかった、私を助けたい?私は警戒を強めて尋ねた。

「一体なんなんです?政府の方?御影石と何か関係あるんですか?」

「は?みかげいし?なんで墓石?墓地の営業じゃないですよ。政府、ということでもないんですが・・・うーん、そうですか。ある程度はやはりご存知なんですよね。」なんだ御影石の関係者じゃないのか?声からしてまだ若い女性だ。30歳前後というところだろうか。

「それなら話は早いです。これはあなたのために言います。大統領計画から降りて頂けますか?」

「は?大統領計画?」そういえば御影石からのメールに空の添付ファイルがあった。そのタイトルがそれだ。

「降りるも何も何のことだか一切わかりませんよ。一体どういうことなんです?レースと何か関係あるんですか?あなた何か知ってるんですか?」

「レース?・・・ああ、わかりました。そういうことなら一度お会いしましょう。コロナ感染の危険の少ないオープンエアのカフェか、近場の公園でも構いません。私の方から近くまで出向きますので。」

「あいにく私は隔離期間中なもので外出はできないんですよ。海外から戻ってまだ1週間なんです。」

「1週間経っているのならおそらく感染の危険性は低いですよ。当然私もマスクをつけていきますし、話は30分もかかりません。あなたも色々と知りたいんじゃないですか?」

事情を知っているのなら聞いてみるのもありだろうか。だが、外に出るなと言い続けた御影石のことが、レースが、そしてなによりも賞金のことがある。新しいPCが欲しい。

「あなたは何者なんです?情報は欲しいですが素性がわからなければこちらとしては信用できません。」

「そうですね、今の時点では私の所属をお教えすることはできません。」

またかよ。

「ですが大統領計画についてはお話しできますよ。おかしな話でしょうが、これはあなたをこの国の大統領にする計画なんです。そのままです。」

「ちょっと何を言ってるかわからないです。」自然と口をついて出た。

「わからないのは当然ですね、そろそろご両親が戻ってくる頃でしょう。明日、改めて連絡を入れます。一度WEB飲み会をしてお互いの情報を交換しましょう。直接会うのはそれから、ということで。」

ガチャガチャと玄関の方からカギを開ける音がする。両親が帰ってきたのだろう。

「ちょっと待ってください、大統領ってどういうことなんです?劇団の話なんですか?」
しかし電話はすでに切れた後だったようだ。私が大統領?ドラマかなんかに出るのか?それもそれでPCくらい買えるかもしれない、と少しテンションが上がったままいると両手に買い物袋を提げて母親がリビングに入ってきた

「あら、あんたまだ部屋を出ちゃよくないよ。大丈夫だろうけど決まりは守っとかなきゃ。」

「ごめん、保健所・・・からの電話だったもんだから。」ああなるほどと母親は買い物袋を置いて買ってきたものを冷蔵庫や棚にしまい始める。

「まあね、そんな厳しくする必要もない時期だけどね。気晴らしで散歩するのも悪くないのかもしれないくらいの時期よね、1週間は過ぎたんだし。でもなんか大統領とか言ってなかった?検査結果が間違ってたのかい?」

「ああ、なんかよくわかんない話だよ。」

「まああんた一人の病状に大統領は出張ってこないわね。コロナって言ってもね。」

「大統領がアメリカからわざわざ心配してくれるの?どんな大物よ。」当たり前だと笑って私は返した。

「アメリカ?まあ海外の大統領はもっとあり得ないわね。日本の大統領だって忙しいのに。」

「日本の大統領?」何を言ってるんだろううちの母親は。

「まあほら部屋に帰っときなさい。今晩御飯の支度するからね。」そう言うとマスクを取り外して料理に取り掛かろうとキッチンへ向かった。

私は首をかしげながら部屋へと戻る。おかしなことを言う母親だ。おかしなことを言う人間ばっかりだ。おかしなことを…言ってるのは私なのか?

・・・to be continued

イラスト:田中ノリヲ 文:田中トシ

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