ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:5

ちょびっと小説『アナザーワールドプレジデント』Day:5

アナザーワールドプレジデント

14日間の隔離生活


Day:5

何が起きているのかよくわからない内に隔離生活は残り10日となった。御影石や花田というおかしな人物からのコンタクトはあったがそれから連絡はない。日々私の目に映るのは大学卒業までをすごしたこの部屋の光景と窓から見える庭の景色だけ。あまりに暇なのでスマホでできるゲームをいくつかダウンロードしてやってみるが、前からやってみたかった何とかウォークというゲームは家から出られないので何も進まず、思わずスマホを投げそうになった。

それくらいに暇なのだ。暇というのは忙しい時間の合間にあればこそ輝くもので、暇の間に暇を挟めばそれはもうただネギ間の肉抜きのように魅力はない。それでも5日目ともあると人間は慣れるもので、こんな生活でも快適に過ごすためのコツがみつかる。まず起きてから布団を畳み、ごみをまとめて庭に出す。昼食を食べたら読書の時間を作り、夕方になると筋トレをする。そのようにある程度のサイクルを決めるだけでずいぶんと生活に張りが出る。この時間が贅沢なものなのかどうか、コロナ前のサラリーマンなら垂涎だろうが、世界はコロナで一変した。

その一変した世界で翻弄される私は幾度か外の様子を探ってみた。だが誰かが私を見張っている様子はないし、40過ぎのおっさんが家の中から外界を物色するように覗いている姿は逆に通報されてもおかしくないのですぐにやめた。私は自分を知っている。

さて、どうにかして花田の言うことが本当なのか確かめる方法はないのだろうか。かの地にいるマサさんに何度か電話をしてみるもつながらず、ふと思い立ち私は花田カズヒロという名前を検索したりもしたのだが、これもお店の経営者、格闘家、学生、当然のごとく候補者が多すぎる。せめて漢字がわかれば、いやそもそも本名である保証もないのだ。

・・・いっそ外に出てみるか。

今は昼の2時半。昼とはいえここは住宅地のはずれにあるので人通りがそれほどあるわけでもない。私の隔離生活はあくまで感染を広げないためであって、誰もいない通りを少しだけ歩く程度の事が問題になるとは思えない。第一それで何が起こるというのか。私は真実を確かめるべく、玄関へと向かった。もしもそれで何か起こるのなら、花田の言うことは何かしらの真実だということになる、

「ちょっとどうしたの?あんた部屋にいなきゃいけないよ。」と廊下に出た私にリビングの母親が声をかけてきた。ドアを開ける音が聞こえたのだろう。

「いや、少しだけ外の空気を吸ってくるよ。さすがに息が詰まってきた。」

「そんな、近所の目もあるんだからもう少し辛抱しなさいな、あと10日のことじゃないの。万が一ってことがあるし、何よりあんたから感染しなくたって近所で罹った人が出たら真っ先に疑われちゃうんだよ。」

母は世間体をそれほど気にするような人ではない。今は引退して家でのんびりと暮らしているがそれまでは病院の検査技師としてバリバリ働いてきたような人だ。が、逆にだからこそ感染症の怖さを知っているということでもある。

「そうだぞ、母さんの言うとおりだ。」母の隣に座る父親が声を上げてきた。
「まあ少しだけだよ、人がいなければ感染の危険は全くないわけだし。」2時間半私を空港で待たせた父親はスルーして母に返答する。
「そしたら夜にしなさい。ここはマンションだから昼間に出歩いていたらややこしくなるかもしれないでしょ。日が沈めばあんたなんだかお父さんなんだかわかんなくなるから大丈夫よ。」そう笑いながら言う母親の提案は至極全うでもある。
「お前は老けてるからわかりゃしないよ。」と父親も笑っているがこれも無視しておこう。
実際に私たちよりずっと後からこのマンションに越してきたのにも関わらずまるで学級委員長よろしく、やたらと仕切り回っている人間がいるという話は聞いていたからその人の目も厳しいのかもしれない、ここはおとなしく夜まで待つのが良いか。

私は踵を返し、半ばまで進んでいた廊下を戻った。リビングへのドアは少しだけ開いていたので、中の様子がちらりと見える。母と父はテレビを見ながら何やらテーブルの上で手作業でもしている様子だ。私は思い切って先日からの疑問を尋ねることにした。

「こないだ、二人で遅くまで話してたよね?何を話してたの?」リビングには入らず母親に声をかける。と驚いた風もなくこちらを向いて母親が答える。
「あら、聞いてたの?大したことじゃないよ。投資、といっても信託だけど運用していたお金が軒並み目減りしちゃったからね。そりゃあ嘆くでしょ。」さらりと応える母親。
「なんだ、盗み聞きだなんて情けない奴だねまったく。」親父も応える。
「・・・でもさ、なんか変な言葉で会話してなかった?」
「変な言葉?」
「外国語みたいな。」
「・・・おかしなこと言うね、あんたみたいによその国の言葉なんかしゃべれるわけないでしょ」母がそう答えると父親も、お前にはわからん言葉なんてたくさんあるとか、本を読めとか言ってきたのだが、じゃあそんな奴が空港まで2時間半も道を迷うんじゃねえよと口に出かけて、無視することにした。
「そう、だよね。」
「ともかく出るのなら夜にしなさいね。それと体調管理が大事だよ。」

部屋に戻った私は考える。あの夜のことは錯覚だったのだろうかと。そしてもう一度花田を検索をしようとPCを立ち上げると新しいメールが入っていた。

差出人:ジャッキー御影石
件名:気を付けて
もしこのメールが誰かに見られる可能性があれば消してください。
あの便の帰国者の内、脱落者が40名を超えました。残るは21名。
ご両親にはお気を付けください

私はなんだか疲れ始めていた。


・・・to be continued

文:田中トシ

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